活用形の数が半端ない!?
スペイン語で「動詞の活用」は“conjugación de verbos”(コンフガシオン・デ・ベルボス)といいます。
conjugaciónは「活用・変化」、verboは「動詞」を意味する言葉です。
スペイン語の文法を学ぶうえで、誰もが苦労するのがこの動詞の活用でしょう。
日本語や英語に比べてはるかに活用形の数が多くて複雑だからです。
英語では動詞の活用上の時制は「現在(原形)・過去・過去分詞」の3つ(現在分詞を加えると4つ)しかなく、主語による変化も2通りしかありません。
日本語でも時制による動詞の活用はありますが、主語によってその形が変わるということはありません。
一方スペイン語では、直説法だけでも「現在・点過去・線過去・未来・過去未来・現在完了・過去完了」と数が多いのに、さらに接続法の「現在・過去・現在完了・過去完了」や命令形まで存在します。
※直接法と接続法の違い・用法については、また別の記事で詳しく解説します。
そのうえ、主語によって6通りの変化(1人称・2人称・3人称それぞれの単数と複数)があるため、1つの動詞につき、何十個もの活用形があることになります。
全ての動詞のすべての活用形を正しく覚えることは、スペイン語の母国者にとっても簡単ではありませんから、スペイン語圏以外の国の人にとって相当難しいことは予想できますね。
まずは、スペイン語の動詞の活用にはある程度のルールがあることを知っておきましょう。
ここではそのルールの中でも特に基本的なものについて解説したいと思います。
目次
規則活用の動詞
全てのスペイン語の動詞の原形(不定詞)は語尾が“-ar ”、“-er”、“- ir”の3種類のいずれかで終わります。
そして時制や主語によってその語尾の部分だけが規則的に変化するものを「規則活用動詞」と呼びます。
規則活用動詞の場合は一定のルールに基づいて活用するので、基本の動詞の活用を覚えてしまえば、他の規則動詞にも適用することができるというわけです。
「ar動詞 」「er動詞」「ir動詞」の3つのグループに分けて、その規則活用動詞の例を見ていきましょう。
ここではすべての時制の活用を紹介するスペースもありませんので、直接法現在に絞って見ていきます。
他の多くの時制についても、この直接法現在の活用形が基になっていて、語尾が変わったり追加されたりするだけですので、まずは直接法現在をマスターすることが大切です。
“-ar”で終わる規則動詞
<例>caminar (カミナ―ル)=歩く
- 1人称単数 camino
- 2人称単数 caminas
- 3人称単数 camina
- 1人称複数 caminamos
- 2人称複数 camináis
- 3人称複数 caminan
語幹の部分“camin”は全く変化せず、語尾“ar”の部分だけが“o、as、a、amos、áis、an”と変化しているのがわかりますね。
“-ar”で終わる規則動詞には他に以下のようなものが挙げられ、どの動詞も語尾の部分はcaminarと同じように変化します。
<例>hablar (アブラ―ル)=話す、comprar (コンプラール)=買う
「-er」で終わる規則動詞
<例>(コメール)=食べる
- 1人称単数 como
- 2人称単数 comes
- 3人称単数 come
- 1人称複数 comemos
- 2人称複数 coméis
- 3人称複数 comen
語幹の部分“com”は全く変化せず、語尾“er”の部分だけが“o、es、e、emos、éis、en”と変化しています。
“-er”で終わる規則動詞には他に以下のようなものが挙げられ、どの動詞も語尾の部分はcomerと同じように変化します。
<例>vender (ベンデール)=売る、beber(べベール)=飲む、飲酒する
「ir」で終わる規則動詞
<例>vivir(ビビール)=生きる・住む
- 1人称単数 vivo
- 2人称単数 vives
- 3人称単数 vive
- 1人称複数 vivimos
- 2人称複数 vivís
- 3人称複数 viven
語幹の部分“viv”は全く変化せず、語尾“ir”の部分だけが“o、es、e、imos、ís、en”と変化しています。
1人称複数と2人称複数以外は“-er”で終わる動詞と同じであることに気がついたでしょうか。
“-ir”で終わる規則動詞には他に以下のようなものが挙げられ、どの動詞も語尾の部分はvivirと同じように変化します。
<例>escribir (エスクリビール)=書く、subir(スビール)=登る、乗る
正書法上の変化
活用は規則的ではあるものの発音上の理由から、綴り(アルファベット)にが生ずる動詞をがあります。
音を聞く限り規則活用動詞と同じ変化の仕方であるようですが、綴りを見ると語幹の最後の子音が変化していたり、アクセント記号が加わっていたりします。
例えば、cは後に母音eやiが来ればサ行に近い発音(セ、シ)ですが、a、o、uが続く場合にはカ行の発音(カ、コ、ク)となります。
それゆえcの部分をzに置き換えるのです。
<例>vencer(ベンセール)=打ち負かす
- 1人称単数 venzo
- 2人称単数 vences
- 3人称単数 vence
- 1人称複数 vencemos
- 2人称複数 vencéis
- 3人称複数 vencen
vencerの1人称単数は規則に基づいて活用すると “venco”のはずですが、これだと発音が「ベンコ」となってしまうため、cをzに置き換えて「ベンソ」と発音されるようにします。
次の例では、子音gに注目してください。
gは後に母音eやiが来ればハ行に近い発音(ハ、ヘ)ですが、a、o、uが続く場合にはガ行の発音(ガ、ゴ、グ)となります。
それゆえ1人称単数のgの部分をjに置き換えてハ行の音(ホ)に近い音で発音されるように表記します。
<例>coger(コヘール)=つかむ、拾う
- 1人称単数 cojo
- 2人称単数 coges
- 3人称単数 coge
- 1人称複数 cogemos
- 2人称複数 cogéis
- 3人称複数 cogen
Cogerの1人称単数は規則に基づいて活用すると “cogo” のはずですが、これだと発音が「コゴ」となってしまうため、gをjに置き換えて「コホ」と発音されるようにします。
不規則活用の動詞①
活用が不規則といってもその程度には差があり、ここで紹介するもののように、似た活用ごとにある程度分類できる場合と、活用の仕方が他の動詞とは全く似ていない場合(不規則活用の動詞②を参照)があります。
語根母音変化動詞
その名前の通り、語根の中にあるいずれかの母音が変化する動詞です。
語尾の部分の活用は規則動詞と同じです。
主なものにはe→ie、o→ueとなるケースやe→iとなるケースがあります。
<例1>entender(エンテンデール)=理解する
- 1人称単数 entiendo
- 2人称単数 entiendes
- 3人称単数 entiende
- 1人称複数 entendemos
- 2人称複数 entendéis
- 3人称複数 entienden
1人称複数と2人称複数は規則活用の “-er”で終わる動詞と同じですが、それ以外は語幹“entend”の中の2番目のeがieになっています。
語尾の部分はすべて規則活用動詞と同じです。
<例2>pedir(ぺディール)=頼む、依頼する
- 1人称単数 pido
- 2人称単数 pides
- 3人称単数 pide
- 1人称複数 pedimos
- 2人称複数 pedís
- 3人称複数 piden
1人称複数と2人称複数は規則活用の “-ir” で終わる動詞と同じですが、それ以外は語幹 “ped”の中のeがiになっています。
語尾の部分はすべて規則活用動詞と同じです。
1人称単数だけが不規則な動詞
1人称単数形だけが不規則な活用をする動詞があり、その多くは1人称単数が “-go” あるいは“-zco”で終わるケースです。
<例1>poner(ポネール)=置く、付ける
- 1人称単数 pongo
- 2人称単数 pones
- 3人称単数 pone
- 1人称複数 ponemos
- 2人称複数 ponéis
- 3人称複数 ponen
規則活用動詞であれば1人称単数は“pono”となるところですが、gが挿入されて“pongo”になります。
<例1>traducir(トラドゥシール)=翻訳する
- 1人称単数 traduzco
- 2人称単数 traduces
- 3人称単数 traduce
- 1人称複数 traducimos
- 2人称複数 traducís
- 3人称複数 traducen
規則動詞であれば1人称単数の活用は“traduco”のはずですが、“z”が挿入されて“traduzco”となります。
このタイプの活用をする動詞は語幹の最後が母音、かつ語尾が“-cer”あるいは“-cir”で終わるものがほとんどです。
不規則活用の動詞②
不規則動詞の最後に、これまでの分類のどこにも当てはまらない活用の仕方をする動詞を紹介しましょう。
日本語文法でも「来る」「する」のように五段活用や上一段・下一段活用のどれにも当てはまらず、暗記するしかない動詞がありますよね。
スペイン語でもそのタイプの動詞がいくつかあるのですが、その中でも特に重要、つまり頻繁に使われるものを以下に挙げます。
<例1>ser(セール)=・・・である(英語のbe動詞に当たるもの)
- 1人称単数 soy
- 2人称単数 eres
- 3人称単数 es
- 1人称複数 somos
- 2人称複数 sois
- 3人称複数 son
<例2>ir(イール)=行く
- 1人称単数 voy
- 2人称単数 vas
- 3人称単数 va
- 1人称複数 vamos
- 2人称複数 vais
- 3人称複数 van
<例3>saber(サベール)=知る、わかる
- 1人称単数 sé
- 2人称単数 sabes
- 3人称単数 sabe
- 1人称複数 sabemos
- 2人称複数 sabéis
- 3人称複数 saben
以上3つの動詞の活用は、これまで見てきたどの分類の不規則活用動詞と比べてもルールが明確でなく、それは他の時制においても言えることです。
このような不規則活用動詞の場合、とにかく繰り返し唱える・書くなどして暗記するほかありません。
ただ、いずれも使用頻度の非常に多い動詞ですから、時間の経過とともに自然と口から出てくるようになるでしょう。
繰り返し聞く・読む・話すことで身につける、というのは子供が母国語を習得する方法と共通するところもありますね。
その他
最後に、スペイン語の動詞の活用についての特徴を他にもいくつか述べたいと思います。
動詞の人称形
最初に述べたように、スペイン語の動詞は時制だけではなく、1人称・2人称・3人称など人称によっても変化します。
動詞の活用形を見た(聞いた)だけで主語が誰だかわかるので、書き言葉でも話し言葉でも主語が省略されることがあります。
この点では、絶対に主語を省くことのできない英語とは大きく異なりますね。
ただし、実際には2人称(君・あなた)であっても、年齢や社会的地位が上であるゆえに敬意を払うべき相手やあまり親しくない相手、あるいは精神的距離を感じる相手に対しては、3人称の活用を使うので注意が必要です。
主語がtú/ vosotrosで表される相手の場合は2人称、usted/ ustedesで表される場合は3人称の動詞を使うことを覚えておきましょう。
なお、中南米のスペイン語圏の国々では2人称複数の主語(vosotros)もそれに対応する動詞も使われないため、親しい間柄の相手に対しても3人称複数と同じ形となります。
命令形・依頼形
命令や依頼というのは目の前にいる相手に対して発するものですよね。
また、当然ですが自分自身やその場にいない人に対して命令したりお願いごとを伝えたりすることはありません。
よって必然的に、動詞の命令形や依頼形は2人称と3人称(相手をUstedで扱う時)の活用のみとなります。
命令形・依頼形のつくり方(活用の仕方)にもある程度の規則性がありますが、やはり例外的な不規則のものも存在します。
また、Usted/Ustedesに対する命令・依頼の活用形を知るには接続法の動詞活用の知識も必要ですので、それはまた別の機会に見ていきましょう。
まとめ
ここで取り上げた動詞の不規則活用がすべてではありませんし、複数の不規則性を持ち合わせている動詞も数多くあります。
さらに、直接法現在では規則活用であっても他の時制では不規則活用になる場合もあり得るため、スペイン語の動詞の活用は実に複雑です。
日本人をはじめ、スペイン語を母国語としない人がすべての動詞の活用を正しく覚えるには、大変な労力と時間を要すると覚悟しなければなりません。
が、それは逆に、動詞の活用さえマスターしてしまえばスペイン語学習の大きな山を越えたことになる、ということではないでしょうか。
いずれにしても、ただやみくもに丸暗記しようとするのではなく、似たような活用をする動詞をまとめて覚えるなど、効率のよい、そして自分に合った習得法を模索してみてください。