スペイン語で頻繁に使われる前置詞 “para”(パラ)と“por”(ポル)は、どちらも英語の“for”に相当します。
かといって、両方が同じ状況・目的で使えるわけではありません。
ごく簡単には、paraは目的を表す、porは動機や理由を表すものと説明することができます。
以下の2つの例文を見るとわかりやすいでしょう。
- ¿Para qué viniste a España?=君は何のために(何をしに)スペインに来たの?
- ¿Por qué viniste a España?=君はなぜ(どういう理由で)スペインに来たの?
この2つの質問文では、聞き方こそ違いますが、答えは同じということもあり得ます(スペインへ来る理由=目的、ととれるため)。
が、Paraを使うかPorを使うかによって、意味が大きく変わる文もあるので注意が必要です。
しかも、この他にもParaやPorにはそれぞれたくさんの用法があり、その使い分けを知らなければ正しい文章は書けませんし、本当に意味することが読み取れない可能性もあります。
この記事では、どんな場合にparaあるいはporを使ったらいいか分からないという人のために、それぞれの主な用法を、例文を交えてご紹介します。
前置詞paraの用法
前置詞paraの後には名詞(節)、代名詞、人称代名詞あるいは動詞の原形が続きます。
目的や受益者・受取人を表す:「~への/のための」
- Hice este pastel para el cumpleaños de mi padre.
=私は父の誕生日のためにこのケーキを作った。
- Esta ropa es para mi hija.
=この洋服は娘のための/娘へのものです。
いずれの場合もParaの後には人称代名詞や一般名詞が続きます。
目的・目標を表す:「~するために」
- Estudio mucho para aprobar el exámen.
=私は試験に合格するためにたくさん勉強する。
Paraの後に動詞が続く場合の例です。
para以降の部分に名詞を使って“para aprobación del exámen”としても「試験合格のため」で、ほぼ同じ意味となります。
- Trabajar para vivir, o vivir para trabajar.
=生きるために働くのか、働くために生きるのか。
仕事中毒の人をからかったり揶揄したりする時に聞かれる言葉です。
事実かどうかはともかく、前者はスペイン、後者は日本の文化・お国柄と考えられているようです。
行き先・目的地を示す:「~へ」「~の方へ」
- Esta noche salgo para mi pueblo.
=今夜私は村に向けて旅立ちます。
Paraは “hacia”(アシア、「~の方に・~に向かって」)に置き換えることができます。
予定の時間・期限(締め切り)を表す:「~までに」
- Hay que terminar este trabajo para el próximo lunes.
=この仕事は次の月曜までに終わらせなければならない。
この期限に月曜日を含むか含まないかの解釈は人や状況によって違うことがあるので、都度確認したほうかいいかもしれません。
対照比較を表す:「~にしては」
- Para ser extranjero, él sabe manejar muy bien los palillos.
=外国人にしては、彼は箸をとても上手に使いこなす。
- Para tener solo 5 años, esta niña canta muy bien.
=たった5歳にしては、この女の子は歌がとても上手い。
上の2つの例文のように、paraの後に動詞の原形が続き、「~にしては、~だ」と意外性のある事柄について述べる場合に使われますことがあります。
意見を述べる:「~にとって」「~の意見では」
- Esta noticia es muy lamentable para mí.
=このニュースは私にはとても残念に思える。
- Para mí, viajar es un elemento que enriquece la vida.
=私にとって、旅は人生を豊かにする要素だ。
2番目の例文のPara míは “En mi opinión” に置き換えることもでき、「私の意見としては」という主張がやや強く感じられます。
- Para mi sorpresa, mucha gente participó a la manifestación de ayer.
=驚いたことにたくさんの人々が昨日のデモに参加した。
- Para mi alegría, el concierto fue un éxito total.
=嬉しいことに、コンサートは大成功を収めた。
“sorpresa”(ソルプレサ、「驚き」)や“alegría”という名詞を使い、「(私が)驚いたことに」、「(私が)嬉しいことに」という表現もよく使われるので覚えておきましょう。
前置詞porの用法
原因や理由を表す:「~によって」「~ゆえに」
- Tuve que faltar a la clase por el gripe.
=私はインフルエンザのために(が原因で)授業を欠席しなければならなかった。
ここでのporは“”(デビード・ア、「〜のせいで」)や“a causa de”(ア・カウサ・デ、「〜が原因で」)と同じ意味です。
大体の場所を示す:「~の辺り」
- Mi abuelo siempre pasea por aquí.
=祖父はいつもこの辺りを散歩する。
この用法のPorは“pasear”(パセアール、「散歩する」)の他にも“ andar”(アンダール、「歩き回る」)“”(バガール、「ウロウロする」)など、特定の1箇所ではない範囲での行動を表す動詞とともに使われることが多いです。
期間・大体の日時を示す:「~の間(期間)に」「~頃に」
- Trabajé en el mundo de finanzas por 5 años.
=私は金融業界で5年間働いた。
この場合、porは前置詞durante(ドゥランテ、「~の間」)と同じ意味になります。
- La apertura del cine nuevo será por el próximo marzo.
=新しい映画館のオープンは来る3月頃だろう。
「3月あるいはその前後」という意味で、「来る3月に」という意味の“en el próximo marzo”よりもやや曖昧な表現になります。
手段を示す「~で」「~を使って」
- Hablo con mi madre por teléfono todos los días.
=私は毎日母と電話で話す。
最近ではTeléfono の代わりにLINE、Messenger、Whatsappなどが入ることのほうが多いかもしれませんね。
- Enviaré esta carta por avión/correo aéreo.
=この手紙をエアメール(航空郵便)で送ろう。
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封書や葉書を海外に送るときには、宛先住所の横または下に目立つように“POR AVIÓN”または“VÍA AIR MAIL”と記入しましょう。
- Suelo ir a trabajar por metro.
=私はたいてい地下鉄で仕事に行く。
このように交通手段を示す場合はporの代わりに前置詞enを使うほうが自然な場合もあります。
対価、代替を示す:「~と引き換えに」「~の代わりに」
- Pagué 10 euros por la entrada del cine.
=映画のチケットを10ユーロで買った。
直訳すると「チケット代として/チケットと引き換えに10ユーロ支払った」となります。
- A veces ella asiste a la reunión por su jefe.
=彼女は時々上司の代わりに会議に出席する。
ここでのporは “en lugar de”(エン・ルガール・デ、「~の代わりに」)と置き換えることができます。
単位を表す:「~につき」「~当たり」
- Estas manzanas cuestan 2 euros por kilo.
=このリンゴは1キロ(グラム)あたり2ユーロだ。
Este coche puede correr a una velocidad de 200 kilómetros por hora.
=このスポーツカーは時速200キロ(メートル)で走ることができる。
通過する場所や空間を示す:「~を通って」
- El gato sale y entra por la ventana.
=猫は窓から出たり入ったりする。
「~を通って出る」は“”ですが、「~から(を)出る」は“salir de”になります。
同様に「~を通って入る」は“salir de”ですが、「~に入る」は“entrar en”です。
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同じ文章でparaとpor置き換えた場合
文法的にはparaと porどちらでも使うことができても、意味が変わる場合があります。
<例1>
- Este tren va para Madrid.
この列車はマドリード行きです。
- Este tren va por Madrid.
=この列車はマドリードを経由します。
paraの文では、終点がマドリードであることがほぼ確実です。
このparaをaに置き換えても意味は同じです。
一方、porの文ではマドリードを通ることは確かですが、その先どこまで行くかはわからない、という状況を指します。
<例2>
- Iré a tu casa para las cinco de la tarde.
=君の家に午後5時までに行くよ。
- Iré a tu casa por las cinco de la tarde.
=君の家に午後5時頃に行くよ。
この場合、porを“sobre”(ソブレ)または“a eso de”(ア・エソ・デ)に置き換えても意味は同じ「午後5時頃に」となります。
この例のように約束の時間を伝える時などに、paraとporを間違って使用すると問題になりかねないので、気をつけてください。
<例3>
- Compré este libro para mi padre.
=この本を父のために買いました。
- Compré este libro por mi padre.
=この本は父の勧めで買いました。
上記porの文では、父が本を買った「原因・理由」であることは確かですが、他にも様々な解釈ができます。
paraの文に近い意味にも取れますし、「父が失くしてしまったので」あるいは「父が欲しがったので」新しいものを買った、などと解釈することもできます。
<例4>
- Estoy para salir a tomar café.
=私はコーヒーを飲みに出かけたい気分だ。
- Estoy por salir a tomar café.
=私はちょうどコーヒーを飲みに出かけるところだ。
“estar para”は「~したい気分だ、~したいと思う」を意味します。
否定文「~したい気分ではない」と使うことのほうが多いかもしれません。
- No estoy para salir de marcha esta noche.
=今夜は料理をしたい気分ではない/料理をする気分にはなれない。
一方“estar por”は「ちょうど~するところだ」の意味になります。
前置詞を置き換えるだけで文の意味がずいぶん変わってしまうので、気をつけましょう。
名言で使われるparaとpor
最後に、paraとporの両方を含む名言をひとつ紹介しましょう。
“Government of the people, by the people, for the people.”
アメリカ合衆国の第16代大統領リンカーンが民主主義についての演説の中で言ったとされる有名な言葉ですね。
日本語でも「人民の、人民による、人民のための政治」と訳されてよく知られるものです。
スペイン語では下記のように訳されます。
“El gobierno del pueblo, por el pueblo, para la pueblo”
英文とスペイン語、そして日本語のいずれにおいても意味はやや曖昧なところがあります。
が、3つの文を比べることは、前置詞を覚える際に役立つのではないでしょうか。
まとめ
数あるスペイン語の前置詞の中でも、paraとporの使い分けは特に難しいと言われます。
実際、どちらも同じように使える場合もあれば、一方しか当てはまらない場合もあることが、例文を見て分かったと思います。
それぞれの用法を暗記してもいいのですが、言語の上達には何より実践が大切です。
とにかくたくさんの文章を見聞きして、どの状況でparaあるいはporを使うのか、判断できるようにしましょう。