スペイン語学習者がまず初めに覚えるべきは挨拶や「ありがとう」「ごめんなさい」といった礼儀を示す表現でしょう。
日常会話の中でも誰もが毎日必ず、しかも場合によっては何度も使うフレーズですね。
ここではスペイン語の勉強を始めたばかり、またはこれから始めるという初級者向けに、日常生活における基本的な挨拶・礼儀の表現とその使い方を、日本のそれと比較しながらみていきましょう。
出会いの挨拶
まず一日中、そしてほぼどこでも誰とでも使える便利な言葉が‟Hola(オラ)”。
英語の“Hi”や‟Hello”にあたるものです。
道で知り合いにあった時、お店に入った時、病院や銀行の窓口で、そして相手がよく知った人でも、そうでなくても、とりあえずHolaと言っておけば間違いはないでしょう。
この「よく知った人でなくても、とりあえず」というのがスペイン人あるいはラテン人らしいところです。
スペインでは名前も素性も知らないけれど、よく顔を合わせる人には必ずと言っていいほどHolaと挨拶しますし、デパートのエレベータ-やトイレで居合わせただけの見ず知らずの人にもHolaと声をかけることが多いです。
日本で「こんにちは」と見知らぬ人に突然声をかけたらびっくりされますよね。
怪しまれないとしても、何か要件があるのではないかと思われそうです。
でも、スペインの人からみると、エレベータ-で黙って乗り降りし、昇降中もシーンと静まり返った雰囲気でいるほうが居心地が悪いのかもしれません。
次は、時間によって使い分ける挨拶を3つ。
- Buenos días.(ブエノス ディアス)=おはようございます。
- Buenas tardes.(ブエナス タルデス)=こんにちは。
- Buenas noches.(ブエナス ノチェス)=こんばんは/おやすみなさい。
Buenos/ Buenasは英語のGood、día, tarde, noche はそれぞれ day, afternoon, evening/nightに相当するので、意味はなんとなく想像はできますよね。
ただ、気をつけなければならないのは、それぞれの挨拶が使われる時間帯です。
目安としてBuenos días は朝起きてから昼食前まで、Buenas tardesは昼食後から暗くなる前まで、そしてBuenas nochesは日が暮れてから就寝まで、と分けられます。
日本と同じじゃないか、と思うかもしれませんが、そうではないのです。
スペインでは昼食をとり始めるのが14:00~15:00ですから、それまではBuenos días と言ってもおかしくありません。
しかも日暮れが遅く、北西部のガリシア地方などでは夏には夜10時過ぎになっても外が明るいことがあります。
日本では夜の10時ならばほぼ確実に「こんばんは」ですよね。
上記の挨拶に続いて出てくるのが相手の気分や体調を尋ねる次のフレーズです。
- ¿Qué tal?(ケ タル)=いかがですか。
- ¿Cómo estás/está?(コモ エスタス/エスタ)=(ご機嫌・体調)いかがですか。
- ¿Cómo te/le va 〇〇? (コモ テ/レ バ ○○)=最近○○はどうですか。
ここでは文法は詳しく説明しませんが、2番目の文中にあるestásや3番目のteはごく親しい間柄、または年齢や社会的地位が同等の関係の相手に対して、 estáやleは少し距離のある、あるいは敬意を払うべき相手に対して使われます。
1番と2番の文はどちらもほぼ同じ意味ですが、¿Qué tal? は漠然と「最近どう?」のような意味で使われることもあるのに対し、¿Cómo estás/está? のほうはもう少し具体的にその時の相手の状態について興味を示す時に使われることが多いです。
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3番は○○の部分に具体的な言葉、例えばel trabajo(エル トラバホ、「仕事」)やla escuela(ラ エスクエラ、「学校」)を入れると「仕事の状況はどうですか。
」「学校ではどんな調子ですか。
」という質問になります。
それに対して相手側は、
- Muy bien.(ムイ ビエン)=とっても元気。
- Más o menos.(マス オ メノス)=まあまあです。
- Estoy cansado.(エストイ カンサド)=疲れています。
- Estoy muy ocupado .(エストイ ムイ オクパード)=とても忙しいです。
などと答えることになります。
1,2番目の質問については、実は単なる社交辞令として言っているだけで、具体的な答えなんて求められていないことも結構あります。
雰囲気から判断して、形式的な挨拶の一部だと感じた場合は、事細かに自分の体調や近況を説明する必要はないと思って大丈夫でしょう。
別れの挨拶
今度は別れ際の挨拶を見ていきましょう。
‟Adiós.(アディオス)“という言葉は、スペイン語を勉強していない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか。
これ以外にも「さようなら」「またね」の意味で使われるフレーズはいくつもあります。
日常会話ではむしろ以下のフレーズのほうがよく聞かれます。
- Hasta luego.(アスタ ルエゴ)=また後で。
- Hasta mañana.(アスタ マニャーナ)=また明日。
- Hasta pronto.(アスタ プロント)=また近いうちに。
などがその例です。
Hastaは「~まで」の意味、はそれぞれ「後・明日・すぐに」の意味だとわかれば覚えやすいかと思います。
そして、Hastaに続く言葉を変えるともっとたくさんのバラエティがあります。
いずれにしても、Adiosよりも気楽な別れの挨拶で、当然また会うことを想定している、という印象を与えます。
お礼の言葉
基本は‟Gracias”(グラシアス)=ありがとう、ですが、感謝の度合いが増すごとに次のように変化していきます。
- Muchas gracias. (ムチャス グラシアス)
- Muchísimas gracias.(ムチシマス グラシアス)
他に、‟Mil gracias(ミル グラシアス)“ や “Un millón de gracias(ウン ミジョン デ グラシアス)” という表現もあります。
Milは数字の千、Millónは百万の意味ですから、直訳すれば「千のありがとう」「百万のありがとう」でしょうか・・・。
たくさん感謝している、ということは伝わってきますよね。
お礼を言われたほうは、次のように返します。
- De nada.(デ ナダ)
- No hay de qué.(ノ アイ デ ケ)
- Gracias a ti/usted.(グラシアス ア ティ/ウステ)
上の二つはどちらも「どういたしまして」「いえいえ、お礼の必要などありませんよ」という意味になります。
最後のフレーズは「こちらこそ、あなたに感謝しています」の意です。
相手との関係により、tiとustedを使い分けます。
お詫びの言葉
謝る際に最もよく聞かれるのが以下3つで、いずれも「すみません」「ごめんなさい」の意味です。
- Lo siento.(ロ シエント): 動詞Sentir(センティール)=残念に思う、申し訳なく思う
- Perdona/Perdone.(ぺルドナ/ペルドネ):動詞Perdonar(ぺルドナーる)=許す
- Disculpa/Disculpe.(ディスクルパ/ディスクルぺ):動詞Disculpar(ディスクルパ―ル)=許す
いずれも動詞の活用形(※)を詳しく学べば、より納得できると思いますが、とりあえず初心者レベルでは、慣用句のように覚えてしまって問題ないでしょう。
なお、1番のフレーズは謝罪の意に限らず「お気の毒です」「お悔み申し上げます」という意味で使われることがあります。
また、2番・3番のフレーズは呼びかけの語としても使われます。
日本語の「すみません」と同じですね。
※スペイン語では時制の他に主語が誰か、または単数か複数かによって動詞の活用が変わります。
主語が謝罪される人(=許す人)である2,3番目のフレーズは、誰に謝罪するかによって語尾が変わってきます。
ニ人称の相手でも、距離間のある間柄の場合は、彼・彼女のように三人称で扱うからです。
お願い
お詫びのフレーズと同様に、動詞を命令形・依頼形と呼ばれる活用形にして「~してください」という文章を作ることができます。
<例>
- Trae/Traiga una cerveza.(トラエ ウナ セルベッサ)=ビール持って来て。/来てください。
※Traeは動詞Traer(持って来る)の命令・依頼形の二人称単数、Traigaは命令・依頼形の三人称単数。
が、まだそこまで文法を習得していない、という場合にはとりあえず文頭や文末に‟Por favor(ポル ファボール)“, をつけると響きが丁寧になり「お願いします」の意味は伝わります。
英語の‟Please”に当たる言葉です。
<例>
- Cerveza, por favor. (セルベッサ ポル ファボール)=ビールお願いします。
- Atención, por favor. (アテンシオン ポル ファボール)=注目してください。
食事時の挨拶
日本人が食事時に使う「いただきます」「ごちそうさま」ですが、スペイン語にはぴったり相当するものがありません。
強いて言うならば「いただきます」の代わりに“Vamos a comer.(バモス ア コメール、「さあ、食べましょう」)”となるでしょう。
が、実際には何も言わずにいつの間にか皆が食べ始めている、ということが多いのです。
会食やパーティーの時などには乾杯を合図に食事が始まることもありますが、それでも結構フライングしている人を見かけます。
「いただきます」に対して作り手が「召し上がれ」の意味で以下の言葉を返すこともありますが、家庭での普段の食事では稀かもしれません。
- “Que aproveche.(ケ アプロベチェ)”
- “Buen provecho.(ブエン プロベチョ)”
レストランなどで、食べ終わって出て行く人がまだ食事中のテーブルの人に向かってこれらの言葉をかけることがあります。
この場合は「お食事を楽しんでください」の意味ですね。
言われた方は “Gracias”と返しましょう。
「ごちそうさま」を直訳すると“Ha sido muy buena comida. (ア シード ブエナ コミーダ、「とても美味しい食事でした」)”となります。
でも“Gracias por la comida.(グラシアス ポル ラ コミーダ、「食事に感謝します」)”と言ったほうが、日本人が「ごちそうさま」に込める気持ちが伝わりやすいかもしれませんね。
外出・帰宅時の挨拶
スペイン人家庭にホームステイをする日本人学生などはよく疑問に思うようですが、「行ってきます」と「行ってらっしゃい」、「ただいま」と「おかえり」のやりとりにも決まり文句はありません。
外出時には“Me voy.(メ ボイ、「もう行くね」)”や、別れの挨拶で見た“Hasta luego”を使い、帰宅時には“Ya estoy en casa.(ジャ エストイ エン カサ、「もう家にいるよ」)”、あるいはシンプルに“Hola”と挨拶します。
仕事後・退社時の挨拶
日本人がよく使う「お疲れさま」や「ご苦労様」に当たるフレーズもスペイン語にはありません。
直訳は“Estarás/Estará cansado.(エスタラス/エスタラ カンサード、「お疲れでしょう」)”となりますが、相手の働きをねぎらうという意味では以下のような表現のほうが自然でしょう。
- “Buen trabajo.(ブエン トラバホ)=「いい仕事をしたね」”
- “Que descanses.( ケ デスカンセス)=「ゆっくり休んでください」”
まとめ
他の言語でも言えることですが、日常会話のフレーズ、特に挨拶は慣用句化していることが多く、直訳すると意味が通らないことも少なくありません。
そのまま丸暗記してしまうのもひとつの手ですが、フレーズの文法的側面や構成する言葉のもともとの意味を理解することで、より覚え易くなるでしょう。
日本人がスペイン語を学ぶ上での最大のメリットは、発音が比較的簡単なことだと思います。
日本語もスペイン語も母音は基本的に「a(あ)・i(い)・u(う)・e(え)・o(お)」の5つです。
子音にはrr、ll、j、g、など日本語には無い、あるいは日本語とは発音の仕方が違うものもありますが、大半はカタカナで表記できるくらい似ています。
まだ勉強し始めで語学力に自信が無い、という人でも発音に関してはあまり心配することはないでしょう。
旅行先、あるいはスペイン語圏の人と話す機会があれば、自信を持って挨拶してみてください。
誰でも外国人が自分たちの言葉で挨拶してくれると嬉しいですよね。
なお、ここまでで見てきたのはあくまでも日常生活の中でよく使われる挨拶や表現です。
誰かと初めて出会った時や公式の場での丁寧な挨拶や自己紹介には、それぞれふさわしい表現がありますので、それはまた別の機会に見てみましょう。