スペイン語圏の国と地域を紹介。その多様性を詳しく解説します。

スペイン語は母国語あるいは第二言語として話す人口が中国語・英語に次いで3番目に多い言語です。

一方、世界で最も使用されている言語のランキング、となるとその順位は英語・中国語・ヒンディー語・スペイン語となります。

公用語としている国は20以上あり、英語・フランス語・アラビア語に次いで4番目に多くの国・地域で使用されていることになります。

また、国連の6つの公用語のひとつでもあります。

世界の人口やそれに付随する言語や文化の情勢は常に変化していますし、このような統計は基準や調査対象によって結果が大きく異なります。

が、いずれにしてもスペイン語が話者数においても使用範囲においても上位にランキングされることは間違いありません。

では、具体的に世界のどんな国や地域でスペイン語が話されているのか、そして使用される国・地域によってどのような違いがあるのかを見ていきたいと思います。

中南米のスペイン語圏

スペイン語はヨーロッパのスペイン本国だけではなく、中南米でも広く使用されていることは知られていますね。

実際、スペイン語を公用語とする国のほとんどが中南米・カリブ海にあります。

それ故、話者人口もスペインより中南米のほうがずっと多いのです。

ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸、これだけ距離のある2つの場所で同じ言語が話されているのは不思議ですよね。

1492年のコロンブスの新大陸発見とその後のスペインの領土拡大の歴史を考えると、その理由はわかってくると思います。

また、南米で唯一ブラジルだけがスペイン語ではなくポルトガル語を公用語としています。

これについても、15世紀末にスペインとポルトガルの間で結ばれた新大陸の統治に関する条約によって、現在のブラジルに当たる地域がポルトガル領になったという歴史を知れば納得がいくでしょう。

中南米およびカリブ海地域でスペイン語を公用語としている国を具体的に挙げてみましょう。

(スペイン語名のアルファベット順)

  • 中米:コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ
  • 南米:アルゼンチン、ベネズエラ、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ
  • カリブ海:キューバ、プエルトリコ(アメリカ自治連邦区)、ドミニカ共和国

その他のスペイン語圏

アフリカ大陸

スペイン本国と中南米以外に唯一スペイン語を公用語としている国が、アフリカ大陸の赤道ギニア共和国です。

やはり長らくスペインの植民地であったことがその理由です。

この国はフランス語を第二公用語、ポルトガルを第三公用語としていて、実際にはスペイン語とポルトガル語の両方を話す国民がかなり多いと言われています。

北米大陸(アメリカ合衆国)

公用語にはなっていないものの、北米のアメリカ合衆国でもスペイン語人口は増え続けています。

特にスペイン語話者人口が多いのはカリフォルニア州、ニューメキシコ州、アリゾナ州、フロリダ州など、いずれも中南米・カリブ海の国から地理的に近い場所です。

アメリカ合衆国では、数十年間にわたって中南米からの移民が流入し続けた結果、総人口の10%以上がスペイン語を話していると言われます。

上記の州ではさらに高い割合でスペイン語話者がいることになります。

また、最も多くのアメリカ(合衆国)人が外国語として学んでいるのもスペイン語です。

それだけスペイン語への関心や需要が高まっているということでしょう。

ヨーロッパ

さらに、世界にはもう一つ、スペイン語が話されている場所があります。

スペインとフランスに挟まれたピレネー山脈中にある「アンドラ公国」という立憲君主制の国家です。

面積470平方キロメートル、人口約7万人、と非常に小さい国ですが、観光客、特に冬場はスキー客が多く訪れます。

アンドラの公用語はスペイン東部で話されているカタルーニャ語ですが、スペイン・フランスとの往来が多いため、住民の多くはスペイン語やフランス語のどちらか、あるいはそのどちらも使いこなせます。

スペイン語の多様性①:欧州スペインと中南米のスペイン語の違い

同じ英語でもアメリカ英語とイギリス英語では違いがみられるように、スペイン本国のスペイン語と中南米のスペイン語では、発音、文法、語彙などあらゆる面で違いがあります。

また、中南米の中でも国や地域によって、様々な相違が見られます。

具体的にいくつかの例を挙げながら見ていきましょう。

発音の違い

  • s、c、zの発音:スペインでは子音“z”や“c”(後に母音iまたはeが続く場合)を、‟th“に近い音で発音するのが一般的なのに対し、中南米では‟s”と同じ(日本語のサシスセソに近い)音で発音されます。例えば、「靴」を意味する“zapato”という単語はスペインでは“thapato”と発音されますが、中南米では“sapato”と聞こえることが多いです。
  • 中南米では単語の最後の子音をごく弱音にする、もしくは読まないことがよくあります。特に単語の最後に"s"が来る場合はこのケースに当てはまります。例えば、"adios" (アディオス、「さようなら」)は"adioh"のように聞こえます。
  • 中南米では母音に挟まれた"d"を発音しないことがあります。例えば、"pescado"(ペスカード、「さかな」 )は"pescao"という風に聞こえます。

なお、スペインのいくつかの地方(特に南のアンダルシア地方)でも、これらの中南米と同じ発音の特徴が多く聞かれます。

文法の違い

  • 人称代名詞「君・あなた」:スペインでは二人称の「君・あなた」を意味する代名詞として、相手に敬意を払う必要があるときや距離感を感じる時には“usted”、そうでない場合には“tú”を使います。

一方、アルゼンチンやウルグアイでは“tú”の代わりに“vos”を使います。

対応する動詞も“vos”専用の活用になるので注意が必要です。

この人称代名詞vosの使用と対応する動詞の活用は"voseo"、そしてtúと対応する動詞の活用は"tuteo"と呼ばれます。

  • 人称代名詞「君たち・あなたたち」:同様に、スペインでは“vosotros/as”「君たち」と“ustedes”「あなたたち」の両方を相手との関係によって使い分け、動詞はそれぞれ二人称複数、三人称複数のものが対応します。

一方、中南米の多くの国ではustedesのみが使われています。

つまり、二人称複数の代名詞vosotros/asもそれに対応する動詞の活用もありません。

  • 過去時制:スペインでは現在完了形が多く使われますが、中南米ではほとんど使われません。

<例>

  • He trabajado mucho esta semana.(エ ビアハード ムチョ エスタ セマナ)
  • Trabajé mucho esta semana.(ビアへ ムチョ エスタ セマナ)

どちらも「私は今週たくさん働きました。

」という最近の出来事を表す文ですが、1番では現在完了形“He trabajado”、2番では過去形“trabajé”を使っています。

この現在完了形を使わないという特徴はスペインの北西部、ガリシア地方などでも見られます。

語彙の違い

語彙の違いには、スペインと中南米で使用する単語が異なる場合と単語自体の持つ意味が異なる場合があります。

中南米の中でも、メキシコ周辺の中米地域とアルゼンチンなど南の方では、異なる単語がたくさんあります。

例をいくつか見てみましょう。

  • ジャガイモ:スペインでは‟patata“ですが、中南米では‟papa”と言います。ちなみに、スペインでは“Papa”と頭文字を大文字で書くと「ローマ法王」を指し、“papá”と最後のaにアクセントをつけると「お父さん、パパ」の意味になります。
  • コンピューター:スペインでは‟ordenador“、中南米のほとんどの国では“computador”または ‟computadora”です。
  • Tシャツ:スペインでは“camiseta”、メキシコでは“playera”ですが、南米には“polo” “polera”などと呼ぶ国もあります。
  • 自動車:スペインでは‟coche“、中南米では‟carro”または‟auto“。ちなみに南米ではcocheは「ベビーカー」、スペインで carroは「カート」を意味するのでややこしいですね。
  • バナナ:スペインでは‟plátano“が一般的です。中南米でも同じように“plátano”という国・地域はありますが、‟banana“というほうが多いようです。また、スペインでカナリア諸島産のバナナをplátano、中南米産のバナナをbananaと呼んで区別する場合もあります。
  • とうもろこし: スペインでは“maíz”ですが、中南米では“choclo”、“pochoclo”、“jojoto”、“elote”など、国によって実に様々です。

上記はほんの一例で、他にも国・地域によって異なる単語は数えきれないほどあります。

同じものを指すのに異なる単語を使う場合はまだいいのですが、同じ単語が場所によって違う意味をなす場合は、誤解を招かぬよう注意が必要ですね。

中南米各地のスペイン語、特に口語にこれだけの多様性が存在するのは、基本となるスペインのカステジャーノに複数の言語・文化が反映されたからでしょう。

それは英語、他のヨーロッパの言語、あるいはもともとその地で使われていた現地語だったりと様々です。

メキシコなどアメリカ合衆国に近い国では、コンピューターのように英語の影響が見られる単語が多くあります。

特にITやファッションに関する用語でこの傾向は顕著です。

また、アジア人口が多いペルーでは、日本語や中国語に由来する言葉もあるといいます。

スペイン語の多様性②:スペイン国内での言語の違い

4つの公用語

実はスペインには公用語が4つあります。

日本で一般的にスペイン語といわれるのは“Castellano(カステジャーノ)”で、スペイン中で広く公用語として使われているものです。

そして、このカステジャーノとは起源の異なる独立した3つの言語が存在するのです。

  • カタルーニャ語:カステジャーノでは“catalán”(カタラン)、カタルーニャ語では“catalá”(カタラ)です。バルセロナを中心とするスペイン東部のカタルーニャ地方の公用語で、発音やイントネーションはフランス語に似ていると言われます。バレンシア地方やバレアレス諸島でも使用されています。
  • ガリシア語:カステジャーノでは“gallego”(ガジェゴ)、ガリシア語では“galego”(ガレゴ)です。スペイン北西部のガリシア州の公用語。もとは同一言語だったと言われるポルトガル語と共通点の多い言語です。ガリシアからの移民の多い中南米の街ブエノスアイレスやメキシコシティにはガリシア語のコミュニティが存在します。
  • バスク語:カステジャーノでは“vasco”(バスコ)、バスク語では“euskera”(エウスケラ)。スペインとフランスにかかるバスク地方の公用語です。起源が不明で、他の3言語とは全く異なる体系の言語です。

これらの地方では、大抵の人はカステジャーノと地方の公用語の両方を話すことができるバイリンガルですが、年齢層によっては地方の公用語しか話さない人もいます。

交通標識や公的書類はそれぞれの公用語のみで書かれている場合もあれば、カステジャーノと併記されている場合もあります。

スペイン各地の方言

4つの公用語以外にも、スペインには地域によって様々な方言があり、発音、イントネーション、語彙などに違いが見られます。

たとえば、首都マドリードの下町のスペイン語(カステジャーノ)は方言とまではいかないまでも癖のある発音で有名ですし、アンダルシア地方の方言は発音の特徴が中南米のスペイン語と似ています。

前述のバレンシア地方やバレアレス諸島で話される言葉も、カタルーニャ語とも少し違うため、それぞれ“Valenciano”(バレンシア―ノ)、 “Mallorquín”(マジョルキン)、といった方言として扱われる場合もあります。

最も正しい・美しい(というと語弊があるかもしれませんが・・・)カステジャーノを話すと言われるのが、サラマンカ、バジャドリード、レオンなどスペイン内陸部のカスティージャ・イ・レオンと呼ばれる地方の街です。

これらの街の大学はスペイン語(カステジャーノ)教育における長い伝統と高い質を持つと評判のため、日本を含め外国からスペイン語を学びに来る留学生がたくさんいます。

まとめ

日本語のように1国だけの公用語である言語とは異なり、世界の多くの国で使用されているスペイン語にはその分たくさんのバリエーションがあります。

スペイン語の学習を始めるにあたり、まずはどこのスペイン語を中心に学ぶのかをしっかり決めておいたほうがいいでしょう。

将来留学したり、仕事で赴任したりする可能性があるならば、その行き先で使われるスペイン語を身につけておかないと、思わぬ苦労があるかもしれません。

通訳や翻訳をする場合も、原文あるいは訳の目的言語がどこのスペイン語なのかを知らないと、間違った訳をしてしまう可能性が高いです。

なにはともあれ、これだけたくさんの国・地域で使われ、話者も増え続けるスペイン語の潜在的価値はかなり高いと言えるでしょう。

1つの言語を知っていることで、ここまで多くの場所で意思疎通がはかれる言語というのは、今のところ英語とスペイン語くらいだからです。

また、日本とスペイン・中南米諸国との関係も文化、経済などあらゆる分野において深まる一方です。

輸出入による物の行き来だけではなく、人の往来も盛んになってきています。

留学や仕事でスペイン語圏に行く場合はもちろん、日本国内にいながらスペイン語を使う機会も今後ますます多くなるでしょう。

スペイン語を学ぶことで、ビジネスをはじめとする様々な分野において可能性が広がることは間違いなしです。

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