今回はスペイン語のことわざや格言・名言について紹介したいと思います。
スペイン語では“proverbio”または“refrán”(ことわざ・格言)、“dicho acertado”または“frase célebre”(名言)と呼ばれるものです。
そもそも「ことわざ」「格言」「名言」とは何でしょうか。
どこに違いがあるのでしょうか。
辞書によって定義は多少異なりますが、概ね以下のように説明されています。
- ことわざ=教訓や知識・風刺などを含み、昔から言い伝えてきた短い句
- 格言=多くの人の戒め・教訓のために古人が残した簡潔な言葉
- 名言=物事の本質をうまくとらえている言葉や文章
この定義では違いがあまりはっきりしませんが、ことわざと格言の多くは古くから言い伝えられているものであり、また、名言はその発祥元(発言者)が有名・著名人であることが多いようです。
そして、人々の間で広く知られる言葉や文章、という点で3者は共通しています。
ことわざ・格言
ことわざや格言は特に、その土地の文化、風習あるいは歴史を反映するものです。
スペイン語のことわざや格言を知ることで、スペイン語圏の人々のモノの見方や考え方がより理解できるでしょう。
日本語と同じで、初級者でもすぐに意味を理解できる比較的簡単なものから、婉曲な言い回しや比喩的な表現のために上級者レベルでも理解が難しいものまで数多くありますが、ここでは覚えやすいように以下のカテゴリーに分けて見ていきたいと思います。
- 動物を表す言葉を含むことわざ・格言
- 食べ物を表す言葉を含むことわざ・格言
- 職業を表す言葉を含むことわざ・格言
- 地名を含むことわざ・格言
動物を表す言葉を含むことわざ・格言(8)
スペイン語ではことわざ・格言に限らず、慣用句などにも動物が非常によく使われています。
- A caballo regalado, no le mires el diente.
直訳=「贈られた馬の歯を見てはいけない」
貰いものにはケチをつけず、ありがたくいただきなさい、という教えです。
- Dar gato por liebre.
直訳=「野うさぎのかわりに猫を渡す」
つまりは人を騙すことを表しています。
日本語の「羊頭をかかげて狗肉を売る(羊頭狗肉)」と同じ意味でしょう。
- Echar margaritas a los cerdos
直訳=「豚にマーガレットの花を投げる」
価値のわからない人(物)に良いものや美しいものを与える、という意味です。
日本語の「豚に真珠」とよく似ていますね。
- Cría cuervos, que te sacarán los ojos.
直訳=「カラスを飼いなさい、するとそのカラスに目をくり抜かれるだろう」
手をかけて育てたものにひどい仕打ちをされる、という意味で、日本語の「飼い犬に手をかまれる」「恩を仇で返す」に当たります。
- La cabra siempre tira al monte.
直訳=「ヤギは常に山に登ろうとする」
一度身についた、あるいは生まれもった性質は一生変わらないということです。
日本語の「三つ子の魂百まで」と似た意味にとれるでしょう。
- En boca cerrada no entran moscas.
直訳=「閉じた口には蠅が入らない」
日本語の「口は災いのもと」と同じで、余計はことは言わないにこしたことはない、という教訓です。
- Matar dos pájaros de un tiro.
直訳=「1つの石(銃弾)で2羽の鳥を殺す」
直訳しても日本語の一石二鳥と全く同じというのが面白いですね。
- Más vale pájaro en mano que cien volando.
直訳=「手の中の1羽の鳥は、空を飛ぶ100羽よりも価値が高い」
確実に手に入る物やすでに持っている物は、入手できるか分からない不確かなものよりずっと価値がある、ということです。
食べ物を表す言葉を含むことわざ・格言(6)
- Contigo, pan y cebolla.
直訳=君と一緒にいられるなら、パンと玉ねぎだけでいい」
好きな人がいれば他には何もいらない、ということを表しています。
パンと玉ねぎが使われているのは、スペイン人にとってごく基本的なあるいは安い食品だからでしょうか。
- Fruta prohibida, más apetecida.
直訳=禁断の果実が最も食欲をそそるものである
禁止されているものほど余計に好奇心をそそる、あるいは欲しくなる、の意味です。
この感覚は時代や文化が違っても共通なのでしょうね。
- A falta de pan, buenas son tortas.
直訳 =「パンが無ければケーキでいい」
手に入る物や身近にある物で我慢しなければならないということです。
パンよりケーキのほうがいい、と言う人もいるかもしれませんが・・・。
- No confunda el aserrín con el pan rallado.
直訳=「おがくずとパン粉を取り違えないように」
見た目は似ていても実際は全く異なることがある、と言っています。
強いて言えば、孟子の言葉「似て非なり」の意味するところと同じでしょうか。
- La miel no se hizo para el hocico del asno.
直訳=「ハチミツはロバの口に合わない/ロバの口に入れるために作られたのではない」
動物に高価なもの・美味しいものを与えても値打ちが分からない、あるいは勿体無いということでしょう。
日本語の「豚に真珠」や「猫の小判」と同じことを意味します。
- Entre col y col, lechuga.
直訳=キャベツとキャベツの間にレタス(を挟む)
いつも同じことをするのではなく、たまには気分転換としたほうが心身ともに安定するということを表しています。
でもキャベツとレタスではあまり違いが無いような気もしますよね。
職業・身分を表す言葉を含むことわざ・格言(6)
A rey muerto, rey puesto
直訳=「王が死んだら、代わりの王」
どんな偉大なものにも代わりはある。
不変の価値、必要不可欠な人や物などない、ということを表しています。
- Poderoso caballero es don Dinero.
直訳=「有力な紳士、それは金である」
この世では金の力が重要だという例えです。
日本語の「地獄の沙汰も金次第」と近い意味でしょう。
- En casa del herrero, cuchillo de palo.
直訳=「鍛治職人の家では木のナイフ」
本業としていることを、自分の日常ではおろそかにしがちになる、ということ。
日本語では「紺屋の白袴」や「医者の不養生」、あるいは「灯台下暗し」に当たるでしょう。
Cuchillo(ナイフ)の代わりにcuchara(スプーン)と言う場合もあります。
- Una manzana cada día, de médico te ahorraría.
直訳=「1日1個のりんごが医者代の節約につながる(医者要らずにする)」
りんごが医者や薬の代わりに病気を治してくれるかどうかはともかく、体にいいことは確かですね。
- Médico nuevo hincha el cementerio.
直訳=「新米の医者は墓地を広げる」
新米(ベテランでない)医者が治療をすると、かえって悪化させたり死なせてしまったりするということ。
新米の医者に対して、ちょっと失礼な表現ですよね。
- El mal de amor no lo cura el doctor
直訳=「恋の病は医者には治せない」
恋愛で悩んだり苦しんだりしているときは医者にも治せない、つまり薬も効果がなく、病の専門家が何か言ったところで役に立たない、ということ。
地名を含むことわざ・格言
- Quien fue a Sevilla perdió su silla.
直訳=「セビリアへ行った者は椅子を失った」
仕事を離れて帰ってきたら、他の誰かがそのポストに付いていた、つまり長い間の不在は仕事やその他大切な物を失う可能性がある、という意味です。
日本語では「去る者は日々に疎し」や「遠ざかるは縁の切れ目」が近い意味になるでしょう。
- Quien no ha visto Granada, no ha visto nada.
直訳=「グラナダを見たことのない人は何も見ていないのと同じ」
グラナダの素晴らしさを表しています。
地名の“Granada”(グラナダ)と“nada”(ナダ、「何もない」)という2つの語が韻を踏んでいることに気づいたでしょうか。
その点でも、日本語でいう「日光を見ずして結構と言うな」に似ていますね。
- Salamanca, a unos sana y a otros manca y a todos deja sin blanca.
直訳=サラマンカでは、ある者は癒され、他の者は不具にされ、そしてすべての者が一文無しにされる。
高名なサラマンカの大学には世界中から学生が集まってきました。
学業で名を上げる者もいれば、失敗に終わる者もいましたが、ほぼすべての者がお金を使い果たすことになると言われていたそうです。
- Cuando a Roma fueres, haz lo que vieres.
直訳=「ローマに行った時は、そこで見たとおりにせよ」
よその土地では、その土地の習慣や教えに従うべき、という例えです。
「郷に入れば郷に従え」という日本語のことわざと同様の意味ですね。
名言
最後に歴史上の重要人物や現代の著名人が言った(といわれる)名言をご紹介します。
ことわざや格言のように必ずしも教訓や戒めを与えるためのものではなく、人々の心に残る、あるいは感銘を与えた言葉や文章です。
- Yo hago lo imposible, porque lo posible lo hace cualquiera.
訳=「私は不可能なことを実行する。
なぜなら可能なことは誰にでもできるから。
」
- Yo no pinto lo que veo, pinto lo que pienso.
訳=「私は見るものを描くのではなく、考えていることを描く」
どちらもかの有名な画家ピカソが残した言葉です。
天才・奇才といわれた彼だからこそ、このようなことを言えたのだと納得させられますね。
- Para hacer las cosas bien: primero, el amor; segundo, la técnica.
訳=「物事をうまくやるために必要なのは、第一に愛、第二に技術である」
バルセロナのサグラダ・ファミリアを始め、数多くの モデルニスモを代表する建築物を手掛けたアントニ・ガウディの言葉です。
この想いを胸に作品の制作にあたっていたのだと思うと、感慨深いものがありますね。
- La arquitectura es la ordenación de la luz; la escultura es el juego de la luz.
訳=「建築は光を操ること、彫刻は光と遊ぶこと」
こちらもガウディの残した言葉です。
ガウディの建築には、いかに光を活用するかということに焦点を当て、色や形を表現したものが多くあります。
まとめ
スペイン語の習得において、ことわざや格言・名言を勉強ことはとても有益です。
短いながらも意味の深い文章に触れることができますし、各言葉の背景にある文化を垣間見ることができるからです。
日本では言い伝えられることわざ・格言とは正反対の意味のものや、日本には存在しない考えかたに基づくものからは、文化の違いが見られて面白いですね。
一方、使う言葉が違っても日本のことわざ・格言と同じ意味のものがあることから、それらの考え方にはある程度の普遍性があることが証明されます。
直訳できるだけではなく、本当に意味するところがわかった時、スペイン語そしてスペイン文化への理解が一歩進んだと考えてよいでしょう。