スペイン語の動詞の接続法とは?直接法とは何が違う?活用形と用法を分析
スペイン語には直接法“modo indicativo”(モド・インディカティボ)のほかに接続法“modo subjuntivo”(モド・スブフンティボ)、そして命令法“modo imperativo”(モド・インペラティボ)というものがあります。
直接法が現実あるいは事実としてある事柄を述べるために使われるのに対し、接続法は主に勧告・命令・禁止・願望・後悔、そして現実とは異なる事柄を述べるために使われるとされています。
言い換えれば、話者の心の中で考えられたこと、または非現実のこととして何かを述べる時に使われるのです。
「接続法」という名前の由来は、従属節の中で、主節に従属・接続して使われるからいう説もありますが、それだけではこの法の用法・特徴を理解するには不十分でしょう。
接続法は、インド・ヨーロッパ語族に属する言語の特徴の1つで、とくにフランス語やイタリア語、ドイツ語など、英語以外の言語で多用されます。
英語には接続法という動詞の活用形は存在しませんが、強いていうならば「もし~であったなら・・・」という意味の「仮定法」の構文は、スペイン語でいう接続法の用法の一部に当たるものと考えることもできます。
この記事では、接続法における動詞の活用形と用法、つまりどんな時に接続法が使われるのかを詳しく見ていきましょう。
目次
動詞の接続法の活用形
スペイン語の接続法は直接法とは異なる活用形態を持ち、時制は「現在・現在完了・過去・過去完了」の4つになります。
未来形はありません。
接続法現在形
まずは規則活用動詞の接続法現在形を、直接法現在形と比較しながら見てみましょう。
直接法では3種類の動詞の語尾(-ar、- er、- ir)によって、活用の仕方も3パターン存在しましたが、接続法では“-ar”で終わる動詞と“- er、- ir”で終わる動詞の2パターンに分けられます。
<例1-ar動詞>caminar(カミナ―ル)=歩く
- 1人称単数:直接法 camino 接続法 camine
- 2人称単数:直接法 caminas 接続法 camines
- 3人称単数:直接法 camina 接続法 camine
- 1人称複数:直接法 caminamos 接続法 caminemos
- 2人称複数:直接法 camináis 接続法 caminéis
- 3人称複数:直接法 caminan 接続法 caminen
<例2-er動詞>comer(コメール)=食べる
- 1人称単数:直接法 como 接続法 coma
- 2人称単数:直接法comes 接続法 comas
- 3人称単数:直接法 come 接続法 coma
- 1人称複数:直接法 comemos 接続法 comamos
- 2人称複数:直接法 coméis 接続法 comáis
- 3人称複数:直接法 comen 接続法 coman
<例3-ir動詞>vivir(ビビール)=住む、生きる
- 1人称単数:直接法 vive 接続法 viva
- 2人称単数:直接法 vives 接続法 vivas
- 3人称単数:直接法 vive 接続法 viva
- 1人称複数:直接法 vivimos 接続法 vivamos
- 2人称複数:直接法 vivís 接続法 viváis
- 3人称複数:直接法 viven 接続法 vivan
ーer動詞とーir動詞を比べると、直接法では語尾の変化に一部違いがありましたが、接続法においては全く同じ変化をしています。
また、3つの動詞グループすべてにおいて、接続法の1人称単数と3人称単数は全く同じ形であることに注目してください。
-ar動詞の活用語尾の中で、直接法ではaである母音が接続法ではeとなります。
逆にーer動詞とーir動詞の活用語尾の中で、直接法ではeまたはiである母音が、接続法ではaとなります。
つまり-ar動詞とーer/ーir動詞で、語尾が直接法とはちょうど反対になるのです。
その他の時制における接続法の活用
現在形以外の時制、つまり現在完了、過去、過去完了についてはそれぞれ以下のルールがあります。
接続法現在完了
動詞“haber”(アベール)の接続法現在+一般動詞の過去分詞形
接続法過去完了
動詞“haber”の接続法過去+一般動詞の過去分詞形
現在・過去どちらの完了形も、直接法と同様に動詞haber+一般動詞の過去分詞形です。
人称(主語)によって変化(活用)するのはhaberの部分で、それに続く動詞に関しては過去分詞形のみを覚えていればいいのです。
Haberは非常によく使う動詞ですし、活用は以下のように不規則ですから、しっかりと覚えてください。
※接続法過去形のつくり方については後述を参照。
- 1人称単数:接続法現在 haya 接続法過去 hubieraまたはhubiese
- 2人称単数:接続法現在hayas 接続法過去 hubierasまたはhubieses
- 3人称単数:接続法現在haya 接続法過去 hubieraまたはhubiese
- 1人称複数:接続法現在hayamos 接続法過去hubiéramosまたはhubiésemos
- 2人称複数:接続法現在hayáis 接続法過去hubieraisまたはhubieseis
- 3人称複数:接続法現在形hayan 接続法過去hubieranまたはhubiesen
例えば、動詞comerの過去分詞はcomidoですから、それをhaberの接続法活用と組み合わせて以下のようになります:
1人称単数の接続法現在完了形 haya comido
1人称単数の接続法過去完了形 hubiera comido
接続法過去
接続法の場合は、直接法とは異なり点過去・線過去の区別はありません。
前述のhaberのところですでに登場しましたが、接続法過去形をつくるには、動詞の直接法3人称複数・点過去形から語末のronを外し、代わりに接続形過去の語尾を付け加えます。
その語尾にはーra形とーse形の2通りありますが、いずれを使っても全く意味は同じです。
具体的な例を見てみましょう。
<例>comerの直接法3人称複数・点過去= comieron であるから、ronを外したcomieに接続法過去の語尾をつけます。
- 1人称単数: comieraまたはcomiese
- 2人称単数: comierasまたはcomieses
- 3人称単数: comieraまたはcomiese
- 1人称複数: comiéramosまたはcomiésemos
- 2人称複数: comieraisまたはcomieseis
- 3人称複数:comieranまたはcomiesen
接続法現在の用法
次に接続法の用法、つまりどんな時に接続法を使用すべきなのか見ていきましょう。
まずは接続法現在を使った例文を紹介します。
大文字になっているのが接続法の動詞です。
願望、感情、禁止、命令、助言、要請、疑いなどを表す文
この場合は主節+que+従属節の構文で、主節の動詞は直接法、従属節(名詞節)中の動詞は接続法となります。
- Deseo que te VAYA todo bien.
=君にとってすべてがうまくいきますように。
主節の動詞desear(デセアール)は「望む・願う」の意味で、願望を表します。
- Lamento que no PASEMOS juntos la Navidad.
=クリスマスを一緒に過ごせないのは残念だ。
主節の動詞lamentar(ラメンタール)は「残念に思う」の意味で、悲しい感情や遺憾を表します。
- Aquella empresa prohibe que sus empleados HAGAN horas extras.
=あの会社は社員が残業することを禁じている。
主節の動詞prohibir(プロイビール)は「禁ずる」の意味なので、この文が禁止事項について述べていることは明らかですね。
- El profesor manda que sus alumnos ENTREGUEN los deberes cuanto antes.
=教師は生徒たちにできるだけ早く宿題を提出するように命じる。
動詞mandar(マンダール)やordenar(オルデナール)は「命ずる」の意味で、指示や命令の表現で使われます。
- El abogado me recomienda que no DIGA nada durante el interrogatorio.
=弁護士は、取り調べ中に何も言わないよう私に助言する。
動詞recomendar (レコメンダール、「勧める」)やaconsejar(アコンセハール、「助言する」)は人に助言やアドバイスをする表現で使われます。
- Ella pide a su novio que no FUME tanto.
=彼女は恋人にそんなにたばこを吸わないように頼む。
動詞pedir(ぺディール)やsupulicar(スプリカール)、rogar(ロガール)はいずれも「依頼する・お願いする」の意味なので、人に何かを頼む際の表現で使われます。
- Mi madre duda que yo VUELVA a casa a la hora acordada.
=母は私が約束の時間に帰宅することを疑っている。
- No creo que TERMINEMOS este trabajo para mañana.
=明日までに私たちがこの仕事を終えられるとは思わない。
疑いや不信を表す文の主節の動詞にはdudar(ドゥダール、「疑う」)の他、 creer(クレエール、「信じる」)や pensar(ペンサール、「考える」)などの否定形 が使われます。
主節のcreerやpensarが肯定の場合は、従属節の中の動詞は直接法です。
ここまでの全ての例文において、主節の主語と従属節の主語が違うことに注目してください。
両方の節の主語が一致する場合は複文の形をとらずに、不定詞を使います。
<例>私は(私が)早く家に帰ることを望む。
→私は早く家に帰りたい。
誤: Deseo que(yo) vuelva a casa pronto.
正: Deseo volver a casa pronto.
主語が非人称の文
主語を特定せずに一般論や話し手の考えを表す時に使います。
- Es lamentable que cada año MUERAN tantas personas en accidentes de tráfico.
=毎年こんなに多くの人々が交通事故で亡くなるのは嘆かわしいことだ。
- Es increíble que ESTÉ de moda una ropa tán rara como ésta.
=このような変な洋服が流行っているなんて信じがたい。
なお、似た構文でも、主節の形容詞が確信や明確さを表す場合は、否定文の時のみ従属節の動詞は接続法で、肯定文では直接法になるので注意が必要です。
「確かな」を意味する形容詞cierto(シエルト)を使った例文を比べてみましょう。
- Es cierto que todos quieren asistir a la fiesta.
=全員がパーティーに参加したいことは確かだ。
(肯定)
- No es cierto que todos QUIERAN asistir a la fiesta.
=全員がパーティーに参加したいというのは確信できない。
(否定)
「たぶん」「おそらく」などの意味の単語で始まる文
Quizá(キサ)、 Tal vez(タル・べス)、 Posiblemente(ポシブレメンテ)、 Probablemente(プロバブレメンテ)はいずれも「たぶん・おそらく」という推定を表す言葉で、従属節の動詞は基本的には接続法です。
が、話し手の主観によって可能性が高いと判断される場合は、直接法が使われる場合もあります。
- Quizá él no LLEGUE a la fiesta a tiempo.
=おそらく彼はパーティーに間に合わないだろう。
- Tal vez ellos ESTÉN saliendo juntos.
=たぶん彼らは付き合っているのだろう。
- Posiblemente me TOQUE la lotería esta vez.
=もしかしたら今回は宝くじが当たるかもしれない。
先行詞が不確定つまり特定されていない時
先行詞を修飾する従属節(形容詞節)中の動詞が接続法となります。
- Esa empresa busca una persona que HABLE bien japonés.
=その会社は日本語の上手い人をひとり探している。
この場合、特定の人に言及しているのではなく「誰か日本語の上手い人」の意味です。
- Quiero comprar un vestido que me SEA de seda.
=絹のドレスを買いたい。
「絹の」ドレスが欲しいと言っていますが、具体的な商品を指しているわけではありません。
もし特定の(既知の)ドレスのことを言いたいのであれば、“Quiero comprar el vestido que es de seda.” (=その絹のドレスを買いたい。
)と直接法を使いうことになります。
条件・目的・時系列などを表す副詞節の中の動詞が接続法となります。大抵は、副詞節内の出来事は主節の出来事の後に起こることになります。
- Se suspenderá la excursion, en caso de que LLUEVA mucho.
=大雨が降った場合には遠足は中止になるだろう。
Tengo que limpiar la casa antes de que LLEGUEN los invitados.
=お客様方か到着する前に家を掃除しなければならない。
強い願望を表す表現
- ¡Ojalá (que) nos VEAMOS otra vez pronto!
=私たちがまたすぐに再会できますように!
- ¡Ojalá (que) te SALGA bien el examen!
=君のテストがうまくいきますように!
- ¡Que tengas buen viaje!
=よい旅行を!
“ojalá”は「神が望むのであれば」というアラビア語から来ていると言われます。
Ojaláの後のque は省略することもできます。
また3番目の例文のようにojaláを省略してqueから始めた場合でもほぼ同じ意味になりますが、切望する印象は少し弱くなります。
接続法過去・過去完了の用法
時制の一致
願望、感情、禁止、命令、助言、要請、疑いなどを表す文において、主節の動詞が(直接法)過去であれば、従属節の動詞はそれに合わせて(接続法)過去になります。
- Mis padres prohiben que SALGA por la noche.
=両親は私が夜に出かけることを禁じている。
(現在の出来事・習慣)
- Mis padres prohibieron/prohibían que SALIERA por la noche.
=両親は私が夜に出かけることを禁じた/禁じていた。
(過去の出来事/習慣)
事実とは異なる仮定や想像、実現不可能な願望の表現
「もし〇〇であったなら、××だろうに/××だっただろうに」という意味の文章、つまり英語でいう仮定法に相当する構文では、接続法過去や過去完了が使われます。
Si(英語のifにあたる)で始まる前半の仮定の条件節の中の動詞が接続法過去あるいは過去完了になります。
後半部分の動詞は過去未来形あるいは過去未来完了形と呼ばれ、それぞれ英語のwould + 動詞(原型)、would have + 動詞(過去分詞)であらわされるものです。
- Si tuviera más dinero, compraría mejor coche.
=もしもっとお金があったなら、よりよい車を買うのに。
(実際には無いので買えない)
Si me hubiera levantado antes, no habría llegado tarde.
=もし早く起きていたら、遅刻しなかっただろうに。
(実際には遅く起きたので遅刻した)
まとめ
日本語や英語の文法には接続法という法(形態)が無いため、最初はかなり戸惑うことでしょう。
作文する度に、直接法と接続法のどちらを使うべきか迷うかもしれません。
使い分け方を身につけるためには、とにかくたくさんの文章を見聞きすることが大切です。
どんな状況でどんな風に接続法が使われるのか、常に意識するように心がけましょう。
繰り返し見て聞いて話しているうちに、自然と使い分けができるようになるものです。
スペイン語の接続法表現に慣れてくると、逆に日本語や英語では(接続法無しで)どうやって表現していたのか考えてしまうかもしれませんね。
複雑で膨大な数の動詞の活用形、そして接続法の用法をマスターすれば、スペイン語文法の基礎はほぼ身に付いたと思ってよいのではないでしょうか。